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夢をかなえる魔法の小箱〜ライカを愛する女性カメラマン

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 カメラ女子、そんな言葉を聞くようになって久しい。
 デジタルカメラが普及して技術的なハードルが低くなったからだという人もいれば、インスタを例に挙げるまでもなく、写真を気軽に撮れる、もっとうまく、美しく撮りたいという気持ちは、むしろ男性よりも女性の方が高いせいなのかもしれない。いずれにせよ、カメラというメカを楽しむのではなく、写真を撮る行為自体を楽しむ女性が増えたのは事実だ。

 大門美奈(だいもん みな)が、そんなカメラ女子のひとりかと言えばちょっと違うように思える。
 カメラメーカーが主催する公募展の入賞をきっかけに注目を浴びるようになり写真家としての道を歩みはじめた彼女。アンダー目でしっとりとしたトーンが持ち味で、見る者の心を落ち着かせるような写真だ。もともと絵が好きで十代のころには画家に師事していたこともあった。写真との出会いは造園を学んでいた大学時代、卒論に添付する写真を撮るため一眼レフを買ったのが最初。

 「ちょっと動機が不純なのですがスペインのアルハンブラ宮殿に行きたくて卒論のテーマに選びました」
照れくさそうに笑う大門。

 「卒論にはポジ(スライド)を添付しなければならなかったので、なんの知識もなく一眼レフを買いました。カメラを向けシャッターを押すだけで思った通りの絵が撮れる、その不思議な感覚に写真が好きになりました」

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 さらりと言うが、これは大変なことだ。写真を趣味にする人の悩みの大部分は思ったように撮れないこと。よほど大門と写真の相性はいいらしい。そんな大門が写真を本格的に学びはじめたのは手痛い失敗からだった。友人の結婚式を撮り、その写真が評判を呼びその兄弟からも撮影を頼まれた。ところがカメラの設定がなにかの拍子で動いたのか、なんと何も写っていなかった。もちろん今のようなデジタルカメラではない時代なので、取り返しの付かないことになってしまったのだ。
 「落ち込みました。期待に応えられなかったのが悔しかった。でも、不思議と写真をやめる気にはならなかったんです」
 負けず嫌いの性格から写真専門誌のスクールに通うようになったという。
 つまり趣味の延長線上という、ありがちなスタートポイントとは違い、純粋に写真の技術を磨こうという努力を行ったという点で、彼女はれっきとした正統派の写真家だといえる。

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ライカとの出会い

 本格的に写真を学ぶようになって大門がたどり着いた道具はライカだった。

 「もちろん紆余曲折はありましたよ(笑) いろんなカメラを使ってみて、一番自分に合っていると感じたのがライカなんです」
ライカといえば世界の名機、性能も素晴らしいし出てくる絵も素晴らしい。

 「もちろん、それもあるんですが一番の理由は小さくて手に馴染むからなんです」
と意外な答えが返ってきた。

 「いつでも持ち歩ける相棒として、これ以上のものはないと思ったんです」
かくしてライカは大門のイメージを具現化する魔法の小箱になった。

 どちらかと言えば重厚でもの静かな雰囲気を漂わせる大門の作風だが、箱庭シリーズは趣を異にする。

 とある生活雑貨の店舗をジャックするかたちで行われた写真展は圧巻だった。そこには日々の暮らしを超えた、見る者を魅了する「何か」が写り込んでいた。

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 「最初は勤め先へ持っていくお弁当の記録だったんです。ですからスマートフォンで撮っていたんですが、そのうち満足できなくなって…。」

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 写真が持つ一番の特性に「記録」という役割が挙げられるが、それを超えたところに表現がある。つまり被写体である弁当箱たちもまた、大門の世界を表す魔法の小箱というわけだ。だから、盛りつけにも絵心が溢れている。標本のように真上から撮られた弁当箱の中に、つい引き込まれてしまう。

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ライカとFIAT500

 そんな大門だが、最近、海にほど近い神奈川県の茅ヶ崎に居を移した。
 海辺の散歩が日課になり、猫との暮らしも気に入ったからだというが、この海辺の地でのライカとの散歩が、彼女の作品の幅を拡げたことは言うまでもない。しかし、一方で思いがけない問題も発生した。

「必要を感じなかったこともあるんですが、実はいままで車の免許を取らなかったんです。でも、ここへ越してきてからというもの、移動の手段として車がどうしても必要。だから運転免許取得を真剣に考えるようになったんです…。」

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 そんな大門をFIAT500の助手席に乗せて海辺の道を走ってみた。
 「クルマは好きなんです。流れる風景を眺めるのも好き。どこかへ運んでくれるメカっていうのもいいですね。それに、これ小さくてかわいい。なんだかライカみたい。」

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 大門の愛機であるライカM10は、1954年に誕生したレンジファインダーの名機ライカM3の末裔。ほぼ同時期の1957年に生まれたNuova500と現行の500との関係にも共通点がみられる。

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 ライカM3とはアナログのカメラの金字塔的な存在であり、その子孫たるライカM10は、その佇まいはもちろんのこと、使い勝手やコンパクトネスなどをライカM3から引き継ぎ、そこにデジタルの便利さを兼ね備える名機として、今も大きな人気を誇る。

 まさに新旧500とよく似た境遇の存在でもある。

 「実は鎌倉あたりでよく見かけるので、いいなぁって思っていたんです。道の狭い小ぢんまりとした街にも似合っていてお洒落だし…。」

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 自分を表現するための小さな箱。彼女はそのクルマにライカと同じような感覚を持ったという。

 彼女が握るはじめてのハンドルが500になる日はそう遠くないのかもしれない。

大門美奈(写真家)
https://www.minadaimon.com