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箱根ガラスの森美術館 モザイク文化が繋ぐイタリアと日本の共通項

イタリアファン必見! 箱根ガラスの森美術館!

山々が織りなす自然の景観美、温泉が湧き出す箱根エリアはクルマ愛好家たちに人気が高いドライブスポット。中でも、仙石原はすすき草原や美術館が点在していることでも知られていますが、ここにはイタリアファンに注目してほしい、とっておきのアートスポットがあります。そのひとつが『箱根ガラスの森美術館』です。

駐車場にクルマを停めて敷地に足を踏み入れると、そこには水の都ヴェネチアを思わせる貴族の館風の建物と緑あふれる庭園が広がる光景が。美術館にアプローチする橋の上には、16万粒ものクリスタルガラスを用いたアーチが日の光を浴びてキラキラと輝きを放っています。

この庭園には季節に応じたガラスのオブジェが展示されていますが、11月上旬から12月下旬にかけて姿を現すクリスタルガラスツリーは『一生に一度、必ず見ておきたい日本国内のクリスマスツリー』として選ばれた作品だとか。
夕刻からライトアップされる幻想的な光景をひと目見たいと訪れるファンも多く、特別な人と一緒にロマンティックな気分に浸るには最高のロケーションといえそうです。


敷地内には美術館のほかに、体験施設やカフェ、水車小屋風の土産物屋も。

箱根ガラスの森美術館は2つのガラス美術館で構成されています。そのうちの一つである『ヴェネチアン・グラス美術館』には、15世紀から19世紀にかけてヨーロッパで貴族達を熱狂させてきた貴重な作品が常設展示されているほか、テーマを設けて企画された特別展も行われています。

『点彩花文蓋付ゴブレット』1500年頃

ヴェネチアン・グラスは、ヴェネチアの小島であるムラーノ島に集められた職人達によって生産され、ヨーロッパ全土にガラス製品を広める役割を担います。そして、15〜17世紀に渡る黄金期にはヨーロッパのガラス製品の生産の90%を担う存在になるまで成長していきました。

こちらのゴブレットは、その初期の作品。イスラムからガラス技術が受け継がれてきた影響を残し、オリエンタルな雰囲気を漂わせているのが特徴です。表面の絵付けは色ガラスを粉にしてガラスに模様を描き、600℃の窯で焼き付ける手法で作り上げられたもの。光が当たる正面から眺めると金色の装飾が重厚感を与えますが、反対側から光を透かしてみると、蒼いガラスの本来の美しさが堪能できます。こうしたガラスならではの表情の変化も人の心を惹きつける魅力といえるのでしょう。

イタリアのモザイク文化を紹介!

また、取材に訪れた時期は『モザイク美の世界』(2013年4月20日〜11月24日)と題した特別展が行われていて、ヴェネチアン・グラスやモザイク文化にまつわる貴重な作品が展示されていました。


『ドージェ ニッコロ・マルチェッロのモザイク画』

板ガラスをパズルのように組み合わせた作品は、15世紀にヴェネチア共和国の提督(ドージェ)の位にあったニッコロ・マルチェッロの肖像画。

ヴェネチアン・グラスは金属とガラスの原料を熔かして化学反応を利用することで3
色もの色を表現する技術をもっていたと言われています。この作品では色ガラスに濃淡を与えた色彩を用いることで、人物に温かみのある豊かな表情をもたらしています。金箔を用いた手法はサンマルコ寺院の装飾にも見られるものなのだとか。


『モザイク・グラス坏』

こちらは紀元前1世紀頃にダルマチア地方(現クロアチア)で出土されたもの。粘土の型を使い、ガラス棒を溶かして制作された大柄な模様になっているのが特徴です。それにしても、今から3000年ほど前にこれほど色鮮やかな作品を造り分ける技術を得ていたとは、当時の人々の技術力の高さには驚かされるばかりです。

古代メソポタミアで生まれたモザイク技法は、黎明期は石やタイル、動物の角や牙、木材などの材料を敷き詰めて作られていましたが、この地域ではガラス発祥の地でもあったことから、紀元前15世紀頃のガラス片を熔着したモザイクガラスも出土されています。モザイク文化は中東から東西に渡り、ローマ時代は壁画装飾やモザイク・グラスへと発展を遂げていきました。

ローマ帝国の発展とともに様々な技巧を凝らして進化を遂げていったのです。しかし、奇しくもローマ帝国が滅亡の時を迎えると同時にその歴史は途絶え、やがて、作り方まで忘れ去られてしまったのです。


1886年に製作されたヴィンツェンツォ・モレッティの肖像画。

そして、時は19世紀後半。ヴェネチアで考古学者と共に古代のモザイク・グラスの作り方を研究し、解明してみせた人物がいました。それがガラス職人のヴィンツェンツォ・モレッティ(1835-1901)。彼は古代ローマ時代のモザイクガラスの皿や坏などを次々と復元することに成功していきます。


色ガラスを組み合わせて飴状に伸ばした棒の断面には、花や幾何学模様が色鮮やかに表現され、そうして作られた様々な模様のガラスを寄せ集めて焼き上げた作品が『千の花』が咲いているように見えることから、それを意味する『ミルフィオリ(Mille=千、 Fiori=花)』と呼ばれました。


ミルフィオリの作品
モザイク・グラス皿 ラヴェンナ 1981年 ヴェネチア


モザイク・グラス皿 1880年頃 ムラーノ


こちらはランプシェードにミルフィオリを用いた作品。
モザイク・グラスは器だけでなく、芸術品として高い評価を得ている作品が多い。


19世紀に作られたアクセサリー。色が異なるガラスを棒状に寄せて熱して溶着させて、金太郎飴の要領で作り上げたもの。小さな台座に陰影をもたらした人物の表情など、その表現方法は細やか。

日本のモザイク文化「寄木細工」を紹介!

モレッティによってモザイク・グラスが復活を遂げた頃、シルクロードを経て日本に伝来したモザイク文化は、木材を寄せて幾何学模様を作り出す工芸品として広まっていきました。それが今も箱根に受け継がれている『寄木細工』です。

山が連なり、標高差が大きい地形をもつ箱根には、もともと多種多様の木が生息していて、茶色が強い木、灰色がかった木など、様々な木材を手に入れやすい環境下に置かれていました。木の幹の部位の色を使い分けながら細工を施し、キメ細やかな模様を表現してみせる寄木細工は、色鮮やかなモザイク・グラスとは違う、天然の色彩を生かした日本ならではの工芸美を生み出したのです。


『文箱』

日本の寄木細工は江戸時代後期となる1873年のウィーン万国博覧会で紹介され、明治時代に開港が始まると箱根を訪れた外国人から高い評価を受けるようになりました。やがて、彼らにオーダーメイドの作品の製作を依頼され、寄木細工を凝らした洋式の家具などが輸出されるようになりました。


『チェステーブル』


『ライティング・ビューロー』(明治時代)

日本最大級の寄木細工を用いた家具が高さ180cm、幅240cmほどの大きさをもつ『ラインティング・ビューロー』。明治時代に制作(→大量生産せずに手作業で作り上げることから、製ではなく制を使わせていただきます。)された書き物机は、細部まで細工を凝らした贅を尽くした作品で、両サイドに翼を広げたようなテーブルは引きだし式になっています。寄木に使われている黒い木材は水中や土中に埋まって数年以上を経た神代杉で、当時の芦ノ湖や湿地帯から採取された貴重な木材が用いられていたことが分かります。

また、この種の大型家具は長い時間、長い距離を経て海外まで運ぶために、各部が分割して組み上げられる構造になっています。箱根の畑宿の地で製作された家具は木箱に詰められて横浜港まで運ばれ、外国船で海外へと輸出されていきました。

箱根の職人たちが丹精込めて作り上げた洋式家具は、いわば東洋と西洋の文化を融合させた芸術品。シルクロードを経て日本に伝わった寄木細工がモザイク・グラスとは違った形で欧州の人々の生活に溶け込み、100年以上の時を経て箱根に里帰りしたことを思うと感慨深いものです。懐かしさと同時に革新性を併せ持った作品は、最新技術と親しみやすさを共存させる現代の物作りのヒントが隠れていそうです。



『ヌーヴォ モザイコ』

特別展に合わせて作られたこんな作品も。
新しいモザイクを意味する『ヌォーヴォ モザイコ(NUOVO MOSICO)』と名付けられた作品は館長の提案によってヴェネチアン・グラスと箱根寄木細工の技法を融合したもの。同じルーツでありながら、異なるルートを辿って発展してきた2つのモザイク文化を繋ぐことで、双方の技術の可能性を体現してみせたという作品です。

美術館めぐりの後は「カフェテラッツァ」へ!

美術館を巡った後に「ちょっと一息つきたいな……」と思ったら、庭園を眺めながら食事がとれる『カフェテラッツァ』に立ち寄るのがオススメ。ここでは、ランチセットやパスタなどが提供されているほか、特別展に合わせた心トキめくデザートメニューも用意されています。

美味しい食事に舌鼓を打ち、カンツォーネの唄声が響くレストランは訪れる人たちを特別な時間へと誘ってくれる空間。カンツォーネのライブは1日に6回ほど行われていて、イタリア人歌手の美しい唄声にはファンが多く、足繁く来場するリピーターもいらっしゃるそうです。

今回提供されていたのは、『モザイク美の世界展』のテーマに合わせて、ブルーベリーとマスカルポーネチーズ、チョコレートスポンジが組み合わされたモザイクドルチェ。ミルフィオリに見立てたフルーツは色彩豊かで、見た目の美しさと美味しさを見事に両立。ロウソクで温めながら頂くフルーツティは時間の経過とともにフルーツの芳香が増し、紅茶を飲み終えた後は生クリームで果実をいただきます。ドルチェは特別展が開催される期間限定で提供されますが、その時期に応じた新メニューが登場するのも楽しみのひとつ。

ショップではモザイク・グラスを用いた作品に加えて、寄木細工とモザイク・グラスのコラボレーション商品も記念販売。モザイク・グラスの商品はその時々で内容が変わるので、『出会ったときが買い』だと語るお客様も。

ヴェネチアン・グラスやモザイク文化に触れながら、イタリアをまるごと満喫できる『箱根ガラスの森美術館』。今回ご紹介したヴェネチアン・グラス美術館のほかにも、現代のマエストロ(ガラス職人)が生み出す作品が展示された現代ガラス美術館も併設。そのほかにも、箱根の自然と調和する四季折々の展示や特別展も企画されていて見所は満載です。みなさんも箱根でドライブを楽しみながら、休日の時間を有意義に過ごすスポットとして立ち寄ってみてはいかがでしょうか。


現代ガラス美術館の様子。ここでは、現代ガラスアートのマエストロによる作品に出会うことができる。

【取材協力】
箱根ガラスの森美術館 http://www.ciao3.com


〒 250-0631神奈川県足柄下郡箱根町仙石原940番48
TEL : 0460-86-3111
開館時間:午前9時〜午後5時30分(ご入館は5時迄)年中無休

隣接有料駐車場(150台)普通車 1日 \300
第2駐車場(100台)無料 施設から徒歩5分