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行きたい! イタリアン_005 『トラットリア ダイ パエサーニ』 サラミや野菜も自家製。自然で家庭的なクチーナ・アブルッツェーゼ

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文=柴田香織(ベスト・イタリアン選考委員) 写真=太田隆生

アブルッツオってどんなところ?

 イタリア半島の中部、東にアドリア海、西はアペニン山脈を挟んでラツィオ州と隣接するアブルッツオ州は、イタリア好きを自負する人でも、未踏の地という人が多いのではないでしょうか。そんな同州出身の2人、オーナーソムリエのジュゼッペ・サバティーノさんとシェフのダヴィデ・ファビアーノさんによる100%クチーナ・アブルッツェーゼ(アブルッツオ料理)が、日本で唯一食べられるのがここ『トラットリア ダイ パエサーニ』です。アブルッツオとはどんなところなのか、まずは、ジュゼッペさんに聞きました。
 「昔のままの風景と料理、文化が残っているところです。これが何かわかりますか?」。
 見せてくれたのは、昔使われていた分銅秤でした。取材日の前日、故郷アブルッツオから戻ったばかりというジュゼッペさん。秤は今回のお里帰りの収穫物だそうです。
 「イタリアの他の場所で失われてしまったものが、アブルッツォには残っています。国内で城や教会が一番多いのはアブルッツオ州。最初のローマ教皇がアブルッツオ人だって知っていましたか?」。

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上:奥行きのある店内にと所狭しと並ぶ、アブルッツオゆかりのものたち。
下:昨日、アブルッツオから持ち帰ったばかりの古い分銅秤。

ずっと手作りして磨いてきた自慢のサラミ

 ジュゼッペさんは、1973年に飲食業を志してイタリアを離れ、サービスマンとしてさまざまな国でキャリアを積みました。主にイタリアのクチーナ・ノーヴァ(モダンイタリア料理)を供するレストランが職場でしたが、プライベートでは、できるだけ故郷のアブルッツオ料理を食べるように。家庭のレシピで作るサラミは、毎年10種類以上作り続けてきたと言います。
 「なぜかって? 自然で手作りのものが体に一番良いからです。添加物の入ったサラミは食べたくないし、おいしくないでしょ。いつか自分の店を持ったら、自分が理想とするアブルッツオ料理の店にしようと考えてきました。実現したのが今の店です」

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上:〈自家製アブルッツォサラミの盛り合わせ〉¥1,600。ジュゼッペさんは、故郷を離れても家庭でずっと作り続けてきたサラミを、初めてこの店でゲストに提供するように。すべて自家製。30種以上のスパイスを駆使した力作は、一種類ずつじっくり味わいたい。
下:奥が「BERKEL」の生ハム用スライサー。手動なので、電動に比べて歯の回転がゆっくりで、肉に熱やストレスを与えない。こちらで切ると、肉のかぐわしい香りが店内いっぱいに広がる。

愛と情熱のアブルッツォ

 ジュゼッペさんは2000年に東京にやってきました。『サバティーニ 青山』や『サドレル』などの高級リストランテで支配人を務め、今の店を開業したのは3年前です。
 「イタリア大使館で料理人をしていたダヴィデと知り合い、彼も故郷のアブルッツオを愛していることがわかりました。私たちはすぐに意気投合したのです」

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上:オーナーのジュゼッペ・サバティーノさん(右)とシェフのダヴィデ・ファビアーノさん。
下:店内は、アブルッツォ州にまつわる本や写真、道具などが満載で、さながら博物館のよう。アブルッツォ州は山が多く、山上に城壁で囲まれた街が発達した。隣街では言葉が通じない、というほど各コミュニティは隔絶しているそう。中山間地では牧畜や農業が営まれ、家畜は羊が多く、ペコリーノチーズや羊肉料理も名物。

徹底的にこだわった手作りの味

 ダヴィデ・シェフ曰く「『ダイ パエサーニ』の料理は、一見シンプルですが、仕込みにはとても時間をかけています。僕もジュゼッペも一からやらないと気が済まないたち。野菜はジュゼッペが千葉の家庭菜園で栽培しているものが中心です。パスタもイタリア産小麦でディナーは100%手打ち麺です。ラザーニャも手作りなので、1日がかりですね」。
 前菜は、ジュゼッペさんの手作りサラミで始めるのが店のおすすめ。真っ赤な自立式生ハムスライサーは手動で、肉に過度な熱を与えず風味が損なわれません。パスタやセコンドに使うトマトソースなども自家製。自家菜園で季節に大量に採れたトマトはトマトソースに、野菜はマリネにして瓶で保存し、店で使用します。イタリアの家庭では当たり前の習慣でしたが、現在は失われつつあります。こうした手作りの文化が、東京の高田馬場で頑なに守られているのは驚きですが、長く故郷を離れている2人にとっては、アイデンティティを確認する大切な行為なのかもしれません。

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上:〈卵とサフラン 骨髄ソースのコルデ デッレ キオッキ〉¥2,000。ユニークな手打ちパスタの種類が多いのもアブルッツォの特色で、キタッラやカヴァテッリがメジャーだが、こちらは女性の靴紐(コルデ デッレ キオッキ)をモチーフとした長いパスタ。アブルッツォは良質なサフランの産地としても有名。サフランと骨髄のソースの加わったゴージャスなカルボナーラのような味わいのパスタは、一見濃厚だが、麺は歯切れよく、たっぷりの卵黄が全体を優しくまとめている。
下右:サラミの幾つかに練り込んでいる唐辛子も、アブルッツォで採取された種を自家菜園で栽培。
下左:自家菜園で採れたトマトはトマトソースに、野菜はマリネにして瓶詰め保存。収穫物を余すことなく使い切る。

レストランを超えた、郷土のストーリーテラーを目指して

 店内には、アブルッツォの写真や本、生活道具など、ジュゼッペさんのコレクションが飾られています。アブルッツォに興味を持ったお客には、本の貸し出しもしているそうです。
 「ただのレストランでなく、アブルッツォのミュージアムにしたい。うちは変なレストランだから」。
 “変なレストラン”と言うジュゼッペさんは、誇りに溢れています。2人のアブルッツエーゼの熱い気持ちと優しい料理は、文句なく唯一無二な存在。ワインも100%アブルッツォ産のラインアップで、今夜も多くの人々を歓待していることでしょう。

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上:卵の殻を模した、ホワイトチョコレートに包まれたミルクたっぷりの柔らかプリン〈チャッチャコーラの巣〉¥950。卵黄ソースを真ん中に忍ばせており、卵を割るような楽しい趣向は、ダヴィデ・シェフのファンタジア(創作)。ミントの爽やかな香りとホワイトチョコレートの組み合わせが絶妙。チャッチャコーラはカササギで、アブルッツォでは春の鳥なのだそう。
下:ワインも全てアブルッツォ産という徹底したこだわり。珍しいものも多数。

シェフのプロフィール

Davide Fabiano
1986年アブルッツォ州生まれ。実家もレストランを経営。アブルッツォの有名料理学校『ヴィッラ・サンタ・マリア』を卒業後、料理界へ。イタリアのほか、イギリス・ロンドン、シンガポールで腕を磨く。2度にわたり計5年間、東京のイタリア大使館のシェフを勤めていた際に、同じアブルッツォ出身のジュゼッペ・サバティーノと知り合い意気投合。自家菜園を作ったり、物件を探したりと1年の周到な準備期間をかけ、『トラットリア ダイ パエサーニ』を2014年にオープン。

SHOP DATA

店名 トラットリア ダイ パエサーニ /TRATTORIA DAI PAESANI
住所 東京都新宿区西早稲田2-18-19
営業時間 11:30~14:30LO、18:00~22:30LO
電話番号 03-6457-3616
定休日 月曜
カード 可(VISA, MasterCard, JCB, AMEX, JCB, Diners)
座席数 36席
喫煙可否 禁煙
アクセス JR・東西線「高田馬場」駅から徒歩8分、副都心線「西早稲田」駅から徒歩5分
Webサイト https://www.facebook.com/trattoria.dai.paesani/
主な料理(地域) アブルッツオ州
スペシャリテ パスタ・フレスカ(生パスタ)各種、自家製サラミ各種
予算 グラスワイン¥800、ボトルワイン¥3,500〜、ランチ1,000〜、ディナー¥4,000〜
*税別/チャージなし