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行きたい! イタリアン_004『シチリア屋』 シチリアが詰まった、路地裏のイタリア食堂へ

文=柴田香織(ベスト・イタリアン選考委員) 写真=太田隆生

文京区民も待ち望んだ一軒

 今年3月、日本全国「官能都市ランキング」が発表されました(ネクストHOME’S総研調べ)。1位は文京区。指標は“街に触れている実感がある”ということのようです。仮に国別ランキングがあったら、イタリアこそ、官能国かもしれません。では、文京区とイタリアは、ひょっとして似ている? 私、文京区民ですが、気づきませんでした。
 文京区は、江戸文化の名残や、昭和の下町情緒もあり、散策に楽しい街。街に触れている感は、確かにあります。不満は、“食べるところが、あまりない”ことでした。
 しかし、ここ数年、少しずつ変化が。白山辺りはユニークな飲食店が少しずつ増え、『シチリア屋』も、そのひとつ。気軽に使えるのが魅力で、夜の〈シチリアセット〉は、前菜の盛り合わせ、乾燥そら豆のスープ、前菜1品、パスタ1品が付いてコストパフォーマンス抜群。このセットだけでもOKですし、パスタやメインの追加もできます。それにしても、なぜ白山、なぜシチリア料理となったのでしょうか。

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上:交通量の多い白山通りから1本入った路地裏にあり、付近は昭和の家並み。元はカフェだった建物を生かした『シチリア屋』は、立て看板もレトロで、近隣の住宅や商店になじんでいる。
下:〈シチリアセット〉(¥3,000 )から前菜盛り合わせ。手前右から時計回りに〈ウニのブルスケッタ〉〈マグロの生ハム〉〈イカのサラダ〉、真ん中が〈レモンのサラダ〉。ブルスケッタのウニは、ほんのり温め香りを立たせている。イカのミント風味、レモンのシナモンの香りに、アラブの影響を受けたシチリアらしさがある。定番のブルスケッタとレモンのサラダ以外、内容は月替わり。

2度目のイタリア修業でシチリアへ

 「白山は、大学時代に住んでいてなじみがあり、好きな街でした。シチリアに惹かれたのは、直感的なものかな。いずれも肌に合ったとしか、説明のしようがないですね」。シェフの大下竜一さんは、最初から料理人を目指していたわけではなく、四年制大学を卒業後、外食産業に就職。そこで次第に料理人として自分の店を持つことが目標になりました。イタリア修業は2度経験をしています。
 「1度目のイタリアでは、料理の基礎ができていないと実感しました」。日本で再び約5年間修業の後、満を持して憧れのシチリアへ。向かったのはエオリア諸島への窓口、港町ミラッツオでした。しかし、働く予定のレストランで、「『寿司を握って欲しい』と言われ、すぐに辞めました」。

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上:客席全体が見渡せるように大きく開いたオープンキッチン。客席からもスタッフの動きが見え、互いの様子が刺激となり、店の臨場感が生まれる。
下右:壁の絵画は料理の師のひとり、『ベヴィトリーチェ』の堀田章シェフが店を閉める際に額ごと譲り受けたもの。
下左:店内は木材が多用されて温かな雰囲気。大きさや表情が異なる個性的なテーブルは、大下さんの父上の作品。壁一面の深いブルーは「シチリアの離島で印象的だったレストランの壁の色と同じに」。シチリアの海、空の色も彷彿とさせる。

 大下さんは、すぐに次の店を探さず、借りたアパートをキープして、地元のマーケットで食材を買い、エノテカで買ったワインと自分の料理を合わせる自主トレ料理生活をスタート。いつの間にか、行きつけのエノテカの主人と仲良くなり、彼の紹介で修業先のレストランを見つけます(この展開、イタリア的!)。
 「客として行ったことのある店でした。〈赤海老とポルチーニのパスタ〉がおいしかったのですが、作り方で想像できない部分があって。謎は厨房に入って解けました」

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シチリアの郷土料理を代表するパスタ〈イワシとフィノキエット(ウイキョウ)のブカトーニ〉¥1,500。場所や店によりオレンジなどの柑橘類、レーズンなども加わるが、大下さんのレシピは、イワシに少々の松の実、たっぷりのフィノキエットというシンプルな構成。イワシの身のほぐれ方が不揃いで食感の変化があり、飽きがこない。

レシピのない料理の魅力に惹かれて

 そのパスタは、パスタ鍋を使わず、ソースと一緒にパスタを煮込む“一鍋料理”でした。「今の店でも、敢えて一鍋方式で仕上げるメニューがあります」。
 パスタから出る小麦の旨味も味に生かす、いわば“クチーナ・ポーヴェラ”(貧乏料理)のテクニック。こうした家庭的な料理の知恵に、大下さんは心掴まれました。「シチリアで感動したのは、レストランのまかないや、おばあちゃんやマンマが作ってくれる料理が多かったです。自分が現地で感動した味、レシピのない料理を自分なりに再現しています」

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〈メカジキのメッシーナ風〉¥1,600。フレッシュトマトに、グリーンオリーブ、ケイパー、セロリが加わった爽やかなソース(メッシーナ風)は、日本の夏にもぴったり。ちょうどよい歯ごたえに煮込まれたメカジキとトマトソースの組み合わせも典型的なシチリアの味わい。メッシーナは、シチリア島の北東部、海に面する県の名前。

 例えば、前菜の定番〈レモンのサラダ〉は、大下さんが大切にしている味のひとつです。レモンを塩、砂糖、オリーブオイルでマリネした冷菜で、シナモンの風味に、赤玉ねぎとの組み合わせも新鮮。「家庭の食事会で出てきた料理ですが、店では見たことがありませんでした」
 お店の一皿一皿には、大下さんやスタッフの、シチリアの思い出や風景が詰まっています。思い出を反芻し、繰り返し作ってきた料理には、テクニックや素材力で語れない、ある種の景観が備わります。シチリアに行ってきた人、これから行く人が自然と集まるという『シチリア屋』。シチリアに触れているような感覚が、この店の魅力なのだと思います。

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「世界史が好きだったことも、複雑な歴史を持つシチリアに惹かれた一因かもしれません」。数多くの名店で腕を振るってきた大下シェフだが、今はシチリアの伝統料理を追求する毎日。

シェフのプロフィール

Ryuichi Oshita
1976年生まれ。大学卒業後、大手外食産業に就職してからイタリア料理を志す。一度目のイタリア修業は2003年より1年半、ブレーシャの一つ星レストラン『ミラモンティ・ラルトロ』で修業。帰国後、現在は閉店した名店『ベヴィトリーチェ』『ムニロ』のほか、『テンダ・ロッサ』、サローネグループなどにて約5年修業後、シチリアへ。ミラッツオにある『ラ・ベッキア・クチーナ』に勤めるかたわら、島を自転車で一周し、シチリアの郷土料理と風土を体感。14年9月に『シチリア屋』をオープン。

SHOP DATA

店名 シチリア屋
住所 東京都文京区白山1-5-5 MC白山ビル1F
営業時間 12:00~13:30LO、18:00~22:00LO
電話番号 03-5615-8713
定休日 月曜(月に1回連休あり)
カード 可(VISA, MasterCard, AMEX)
座席数 25席
喫煙可否 禁煙
アクセス 三田線白山駅・春日駅・丸ノ内線後楽園駅から徒歩6分、南北線東大前駅から徒歩7分
Webサイト http://www.sicilia-ya.com/
主な料理(地域) シチリア
スペシャリテ ウニのブルスケッタ、レモンのサラダ、乾燥そら豆のズッパ、イワシとフィノキエットのブカトーニ、ウニ好きのための濃厚ウニのリングイネ
予算 ランチ¥1,200〜、ディナー¥5,000〜。グラスワイン¥600〜、ボトルワイン¥3,500~¥4,000 *税別/チャージなし