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行きたい! イタリアン_003『オストゥ』(東京・代々木公園)

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文=井川直子(ベスト・イタリアン選考委員) 写真=太田隆生

バローロの、葡萄畑の中に建つ一つ星で

 かつてのサルデーニャ王国国王であるサヴォイア家のお膝元、そしてイタリアが統一された後、最初の首都となったトリノを擁するピエモンテ州。王家の歴史があり、世界的に知られる白トリュフといった食材もワインも豊かな土地柄です。
 中でもバローロは、言うまでもなくイタリアを代表するワイン銘醸地。どこまでも波打つような丘陵の美しさが認められ、バローロを含む「ピエモンテの葡萄畑の景観―ランゲ・ロエロ・モンフェッラート」は2014年、世界遺産にも登録されました。
 このバローロで5年もの間暮らし、ピエモンテの伝統料理を学んできたのが代々木公園『オストゥ』の宮根正人シェフ。約4年半を、葡萄畑の中に建つ一つ星リストランテ『ロカンダ・ネル・ボルゴ・アンティーコ』で修業。残りはピエモンテの食材をもっと知りたいと、肉屋、チーズ熟成工房、グリッシーニ屋、天然酵母パン屋、クラフトビール醸造所などを訪ねていたとか。

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上:代々木公園はすぐそこ、小さな公園の脇にある16席の店は、どこかのんびりとした空気感。昼は開放的、夜になるとお客で賑わう店内がぽっかりと浮かび上がる。下:アンティーク好きの宮根夫妻。飾られたジノリのイヤープレート、100年以上昔の調理器具にコルク抜き、椅子などはイタリアの骨董市や古物屋で見つけたもの。

僕はピエモンテしか知らない

 2007年に開店した『オストゥ』は、6月でちょうど10周年。
 オストゥとは方言で、オステリアの意味。現地のオステリアがそうであるように、彼もまた〈タヤリン〉(卵黄をたっぷり使った平細打ちのパスタ)、〈アニョロッティ・ダル・プリン〉(小さなラビオリ)、〈ブラザート〉(牛肉の煮込み)といった定番の伝統料理を、10年ずっと作り続けてきました。

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上:現地同様、木箱で乾燥させる自家製タヤリン。ピエモンテを代表する、卵黄を贅沢に使ったパスタは晩秋の白トリュフとも相性抜群。下: 6月28日で10周年を迎えた『オストゥ』。宮根シェフは、メニューリストに一度載せたピエモンテ料理をやめたことがない。だから常連客は「いつものあの味」を求めて通い続ける。

 「僕はピエモンテの、バローロの料理しか知りません。それが僕の弱みであり強みです」
 実は最初にロンバルディア州で1年修業しているのですが、彼にとって自信を持って「知っている」と言えるのは、長い歳月を費やして体に染み込ませてきたものだけ。つまり、ピエモンテの味と感覚だけということ。
 〈アニョロッティ・ダル・プリン〉でいえば、中に詰めるフォンティーナチーズの塩分とパスタ生地の厚みのバランス。タヤリンなら食感。プリッとした弾力ではなく、ソースを吸ってポソッとするような食感や、包丁であえて少々ランダムに切った歯触りの楽しさ。ピエモンテを旅したことのある人なら、うん、これこれ!と思わず頷いてしまうはず。

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¥7,500のコースより(以下すべて同)。前菜は4品。うち3品は大皿で次々と現れ、目の前で皿に取り分けてくれるピエモンテ式。右から〈真鰯とサルサヴェルデ〉〈馬肉のカルネクルーダ〉〈自家製セミドライトマトとモッツァレラのファゴッティーノ〉。※時季により異なる

繊細な味を重ねて完成されるピエモンテの伝統料理

 味、食感、香りなどいくつもの要素を構築して、ひとつに完成させる洗練された料理。それがピエモンテの味。バローロのシェフ、マッシモ・カミーア氏がそうだったように、彼らはそこへ到達するための手間も時間も惜しみません。
 バーニャカウダのにんにくは、牛乳と白ワインで3時間弱下茹でします。ここでピュレの質感が決まるのだそう。ポレンタを作るにも、ピエモンテの石臼挽き「ムリーノ・マリーノ」の粉を使って2時間半、練りながら火にかけます。そういった一つひとつの地道な仕事を、はしょらず丁寧に。

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〈タヤリン〉を和えるソースは時季で替わる。この日は自家製サルシッチャとピゼッリ(グリーンピース)、フェンネルシード、フレッシュトマトで爽やかに。

イタリア人でも作らなくなった古典料理

 メニューの中には、〈フィナンツェーラ〉(鶏のトサカ、豚の脳や内臓などの煮込み)や、〈ニノ・ヴェルジェーゼ〉という昔の料理人のレシピによる赤玉葱のリゾットなど、もはやイタリア現地でも作る人が少なくなった古典的な料理も。
 お店を持った後も、何度もイタリアに “里帰り”しては感覚を確かめ、ピエモンテをますます好きになって帰ってくる宮根シェフ。そうして定番料理は水面下で磨かれ続け、私たちは何度食べてもまた『オストゥ』のあの料理、あの味が食べたくなるのです。

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上:〈フィナンツェーラ〉は、赤ワインヴィネガーを利かせた野菜のだしで2時間半じっくり炊く砂肝をはじめ、トサカ、レバー、ハツ、馬の脊髄、仔牛のリ・ド・ヴォー、豚の脳みそなどを別々に炊き、最後に合わせる手間のかかった一品。下:ピエモンテ名物の〈ジャンドゥイオッティ〉。『オストゥ』では、名門ヴァローナ社のビターとミルクチョコ、ピエモンテ産ヘーゼルナッツで手作りしているため舌触りと口溶け、香ばしさが断然違う。きちんとした包装は妻・美苗さんの作。

シェフのプロフィール

Masato Miyane
1974年、埼玉県出身。代官山『アントニオ』を皮切りに東京のイタリア料理店4軒を経て、2001年に渡伊。ロンバルディア州『アル・ベルサリエーレ』で1年修業した後、ピエモンテ州バローロの一つ星『ロカンダ・ネル・ボルゴ・アンティーコ』で4年半スーシェフを務めた。名だたるワイナリーと親交を持ち、肉屋やチーズ工房などピエモンテの食の現場も学んで帰国。現在は『オストゥ』オーナーシェフ、妻の美苗さんがサービスを務める。

SHOP DATA

店名 オストゥ Ostü
住所 東京都渋谷区代々木5-67-6 代々木松浦ビル1F
営業時間 12:00~13:00LO(土・日・月曜・祝日のみ、前日までの要予約)、18:00〜21:00LO
電話番号 03-5454-8700
定休日 水曜
カード 可(VISA、MasterCard、AMEX、JCB、Diners)
座席数 16席
喫煙可否 禁煙
アクセス 小田急線・代々木八幡駅から徒歩3分、東京メトロ千代田線・代々木公園駅から徒歩1分
Webサイト http://www.ostu.jp/
主な料理(地域) ピエモンテ州
スペシャリテ カルネ クルーダ、アニョロッティ デル プリン、リゾット ヴェルジェーゼ、ブラザート アル バローロ
予算 ランチコース¥3,800、¥6,000。ディナーコース¥7,500(すべて要予約)、アラカルトあり。グラスワイン¥1,000〜¥1,300、ボトルワイン¥5,000〜 *税込/チャージ¥500(ディナーのみ)