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日本のベスト・イタリアン File_001 『ラ・ボッテガ・ゴローザ』(神奈川・湯河原)後編

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文=田代いたる(ベスト・イタリアン選考委員) 写真=太田隆生

現地修業で体得した郷土の素朴な美味しさを華麗に再構築

 「この前菜は〈カッポナーダ〉というリグーリアの郷土料理で発祥は漁師料理とされています。現地ではツナやカラスミ、ブランダーダなどの魚介に野菜を合わせるのが一般的」。先に紹介した鰤はツナ代わり。ボラで作るカラスミも自家製で、ブランダーダは本来、タラのほぐし身を用いますが、ここでは真鯛。ポテトと合わせて仕立てます。「修行した中心地はトスカーナの港町ヴィアレッジョでしたが、車で1時間も北上すればリグーリア。私自身、現地では農家や漁師が日常的に食べている料理にこそ深みを感じて」。そう修業時代を振り返りました。

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上:白い羽板の鎧戸の向こうに庭。開ければ、清澄な空気も室内に届く。下:調度品も素朴で、プライベートダイニングのように居心地がよい。

都心の一等地でリストランテにチャレンジした結果、訪れた転機

 後藤さんがイタリアへ赴いたのは30年ほど前。トスカーナのほか、ベネトやロンバルディアの数軒で研鑽を積みました。帰国後、2000年には東京に進出。青山という一等地で一軒家のリストランテを開くまでになりました。「けれど」と後藤さん。「当時は固く、小さくまとまっていました」。一等地だからこそ悩みは尽きなかったそう。高額な家賃、時代のトレンド、常に比較される都心の料理人たち……そんな事にがんじがらめとなり、ゲスト個々の気持ちや、自身が表現したい料理とは無縁のところで萎縮してしまっていたのです。転機は50歳になる頃。リーマンショックなどの影響もあり、青山の店を閉める決断を迫られました。

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オーナーシェフの後藤俊二さん。「湯河原へ来て改めて、料理人とは自己表現のできる仕事と思った。つまり、生き様の延長ですね(笑)」

辿り着いた湯河原の地で、自身が心より表現したかった料理を

 「そのとき、ふと思ったんです。これは逆にチャンスだと」。それでダメなら料理人としてもダメだ。これまでと違う、地に足の着いた仕事を求め、辿り着いたのが湯河原でした。その選択が正しかったことは、後藤さんの晴れやかな笑顔を見ればよくわかります。「このパスタはロマーニャの料理。農民が愛する郷土の味」。魚料理はヴィアレッジョで出逢った美味の再構築。魚介の旨さをストレートに引き出す手法に感銘し、後藤さんがイタリア料理に開眼するきっかけとなった思い出の一品です。ここでは、駿河湾産の的鯛を、大麦リゾットと合わせています。

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〈トルテッローニ 田舎風サルシッチャのソース〉は¥8,000、¥10,000のコースで提供。パスタの中にはアーティチョークのペースト。ソースはグラーナ・パダーノチーズでまとめたバター×サルビア。

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〈地物 的鯛のグアゼット 大麦のオルゾットを添えて〉¥8,000。コースの魚料理より。大麦は魚のブロードでサフラン風味に仕立てており、仕上げにトマトと軽く煮込んだ的鯛、小海老と合わせた。

常連のように歓待され、美味に舌鼓。もてなす心と料理で示す真価

 「今は解き放たれていますね。そして、どんどん自由に柔軟になっていると感じています。田舎を拠点にした店にして本当に良かった」。完全予約制ゆえ、顧客ひとりひとりの顔も、今はよく見えるようになったとのこと。だからでしょう、食べて感じるのは、温もり。友人や親族に歓待されているような──あるときは無性にワインが欲しくなり、あるときは後藤さんとあれこれ話したくなるのです。この空気感こそ、現地で感じたイタリア料理の真髄では? 嬉々として地元の食材に手をかけ、個々のゲストに向けて己の料理を作る。常連を笑顔で迎え、皆から愛されるイタリアの地元料理店と『ラ・ボッテガ・ゴローザ』が見事に重なって映ります。

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右:〈ヴィーニャ・バルバカルロ2009〉¥12,500。ロンバルディアで19世紀から同じ手法でワインを作る名家の赤。「イタリアを感じる、しみじみとした美味しさ」。左:〈オペラ・プリマⅩⅧ NV〉¥ 15.000。ピエモンテの赤で、畑の力だけでバルバレスコやバローロを醸す生産者が手掛ける。ワインは修行した中北部を厚めにリストアップ。

シェフのプロフィール

Shunji Goto
愛知県生まれ。長野のリゾートホテルおよびレストランで料理を学ぶ。その後、東京・西麻布の『アルポルト』を経て渡伊。ミラノ郊外『アルベルゴ・デル・ソーレ』ほか、ベネト、トスカーナの数店で修業。帰国後『グラン・ピアット』の総料理長を務めた後、1993年名古屋市内に『ウン・ゴッチョ』を、2000年東京・北青山に『アテオ』を開店。2010年に湯河原に移住し『ラ・ボッテガ・ゴローザ』をオープン。

SHOP DATA

店名 ラ・ボッテガ・ゴローザ LA BOTTEGA GOLOSA
住所 神奈川県足柄下郡湯河原町鍛冶屋832-19
営業時間 11:30~13:30LO、17:30~20:00LO
*昼夜とも前日午前中までの完全予約制
電話番号 0465-62-6949
定休日 不定休
カード 不可
座席数 12席
喫煙可否 禁煙
アクセス JR湯河原駅よりタクシー7分、バス(3番乗り場から鍛冶屋行き、終点「鍛冶屋」下車、徒歩12分)
*2台分の駐車場あり
Webサイト http://www.bottega-golosa.com/
主な料理(地域) イタリア中北部(トスカーナ、リグーリア、ヴェネト、ロンバルディア、エミリア・ロマーニャ、ウンブリアなど)
スペシャリテ カッポナーダリッカ、ポレンタタラーニャ、栗粉のクレスペッラ、リゾットピロータ、鳩のソパコアーダ、ジビエ料理。
予算 ランチ、ディナーともに、おまかせコース¥8,000、¥10,000、¥12,000(4名様以上は¥6,000もあり)。グラスワイン¥900〜、ボトルワイン¥5,800〜 *税・サービス料(10%)別