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世界を旅する美術館「スケッチトラベル展」

6月26日より渋谷ヒカリエにて「スケッチトラベル展」が開催されています。
2006年に2人のアーティストが有志ではじめたこの企画には、ビル・プリンプトン、ジェームス・ジーン、レベッカ・ダートルメール、グレン・キーン、フレデリック・バック、宮崎駿をはじめとする著名な芸術家71名が参加。
作品や出版物の収益の全額をチャリティに還元してきた同プロジェクトでは、これまでにカンボジア、ラオス、スリランカ、ネパール、ベトナムでの図書館・図書室の開設に成功しています。
今回は当プロジェクトの発起人であり、現在、世界的なアニメーションスタジオ、ピクサーでアートディレクターとして活躍する堤大介さんにお話をうかがいました。

――堤さんが「スケッチトラベル」のプロジェクトをはじめたきっかけについて教えてください。

堤大介(以後、堤):スケッチトラベルは僕の友人であり仏人画家のジェラルド・ゲルレと2人ではじめたものでした。最初はこのスケッチブックを共有することで、自分たちの憧れのアーティストや芸術家たちに会いに行けるきっかけになったらうれしいな! と、本当に遊び心からスタートしたんです。

――このプロジェクトの企画内容について教えてください。

堤:ルールはいたってシンプルです。1アーティスト、見開き1ページに1作品ずつイラストを描いて、次のアーティストにつないでいくというものです。

――参加アーティストは「どんなに遠く離れていてもスケッチブックを“手渡しする”」というルールはとても興味深いですね。

堤:そうなんです。絶対に郵送は禁止! あくまでアーティスが自分の足を使って、手渡しでつないでいく、という点にすごくこだわりました。そうすることできっと、アーティスト同士のご縁や心、旅程での思いがけない出来事が紡がれていく……。そうした目に見えないストーリーまで大切にしたかったんです。

――こうした活動がチャリティへと発展していったのにはどのような経緯があるのでしょう?

堤:ありがたいことに、この企画では、すばらしいイラストが、さらにまたすばらしい絵画へとつながり、多くの著名な作家に参加していただくことができるようになりました。すると、自然とその作品を求めるかたがたも増えていったのです。僕とジェラルドは、そうして得た収益を一番よいかたちで世の中に還元するにはどうしたらよいか? と模索するようになりました。そんな折、途上国の子どもたちに教育支援を行なう国際NGOルーム・トゥ・リード(Room to Read)に出会い、こちらの活動を支援することに決めたのです。

――ルーム・トゥ・リードのどのような部分に共感したのでしょうか?

堤:「本を読む部屋」という名の通り、同団体は、発展途上の国々の子どもたちのために現地語の絵本を出版したり、学校施設や図書館・図書室を開設したりする活動を続けています。さまざまなボランティア団体がある中、「子どもたちの教育が世界を変える」という信念のもと、グローバルに支援を展開する同団体に強く心惹かれました。同時にスケッチブック自身が、それを望んでいるようにさえ思えたのです。

――堤さんご自身にとって、本や絵本とはどういった存在ですか?

堤:不思議なもので、子どもの頃に読んだ絵本って、今でも覚えているんです。細かな物語の筋は忘れてしまっても、大好きな絵やシーンはまるで写真で切り取ったように心の奥深くに棲んでいて。そうした記憶たちが今、僕がアニメーションを創る原動力になっているんです。

――本はまさに、今の堤さんを育てた「心の糧」なんですね。

堤:その通りです。それらは決して、その場限りの単なるエンターテイメントではありません。ともすれば社会は、目先の利益や経済活動ばかりを追求するあまり、心の養生を軽視しがちです。でも、本やアートというのは、食事と同じくらいに、「命」に直結する大事なエッセンスだと思うのです。こうしたことは僕自身が映画の仕事に携わることでもずっと意識してきたことですが、実際に支援先の国々に訪れてみて、届いたばかりの絵本を手にしたときの溢れんばかりの子供たちの笑顔を見て、確信しました。

――そうした想いを知った上で、一つひとつの展示作品を見ていくと、より一層、感慨深いものがありますね。今回のスケッチトラベル展をはじめ、第一線で活躍する堤さんはアートやアーティストの意義をどんなふうにお考えですか?

堤:「どんなにすばらしい才能も社会貢献のために役立てられなくてはなんの意味も持たない」これは、僕が現在の仕事を志すきっかけにもなった世界的なアニメーション作家、フレデリック・バック氏の言葉です。幸いにも僕はこのスケッチトラベルを通して氏と面会する機会に恵まれたのですが、そのさいにいただいたこの言葉を忘れることはできません。一人ひとりの力は小さくとも、表現を通して、少しでも人や社会がよき方向に行くように光を灯し続けるのがアートの役割であるし、僕らの使命なのだと信じています。

――すばらしいお話をありがとうございます。最後に、今回渋谷ヒカリエでのスケッチトラベル展開催にあたり、お客様へのメッセージをお願いします。

堤:今回は、このようなすばらしい機会をいただき、感無量です。きっと、スケッチブックの中のイラストたちは皆さんにお会いできるのを心待ちにしています。今回の収益はすべてアフリカでの図書室開設支援に還元されます。皆さんのご賛同が遠い異国の子どもたちの笑顔につながりますよう!

※イベント開催は7月7日(日)まで