ゆっくり生きよう・にっこり走ろう

人にも環境にも自分にも優しくいきる。それがフィアットカルチャーです。

江戸の風情が残る「うだつの上がる町並み」で、1300年前から変わらぬ美濃和紙の温もりに触れる

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文=友永文博 写真=後藤秀二

奈良の正倉院に現存する、美しく丈夫な美濃の和紙

 2014年にユネスコの無形文化遺産にも登録された岐阜県の「本美濃紙」。原料は植物の楮のみ。紙をすく際に縦横に動かすため、楮の繊維が複雑に均一に絡まり、薄く丈夫な紙ができるのだそうです。文字を書き付けるものとしてだけでなく、本美濃紙を通った光は柔らかで美しく、また通気性もよいため、城や寺院、商家などに用いられる最高級の障子紙(書院紙)として重用されてきました。
 FIATがNPO法人、メイド・イン・ジャパン・プロジェクトとコラボし、日本の優れた工芸品に光を当てるプロジェクト。今回取り上げるのが、この本美濃紙です。本美濃紙保存会会長で国の重要無形文化財でもある澤村正さんに紙をすいていただき、桐箱に入ったオリジナルのポストカードを作成することに。その類い稀なる紙の生まれる現場に立ち会いたくて、早速、澤村さんの自宅工房を訪ねました。

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長良川の河川敷に降りた500X。石だらけの悪路も難なく走破する頼もしきパフォーマンスを見せてくれた。

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需要不足と価格の低迷から、周辺に約3,000軒以上あった和紙工房が十数件に激減する苦しい時期も、澤村正さんは本美濃紙にこだわり、夢中で専心してきたという。

紙すき職人の頂点に立つ匠の工房へ

 場所は美濃の中心地、有名な「うだつの上がる町並み」から北西に車で15分ほど。長良川の支流、板取川中流域の小さな集落、牧谷地区にあります。小川にかかる小さな橋を渡り、一段低い土地に建つ工房で、澤村さんと弟子の寺田幸代さんが黙々と手を動かしていました。澤村さんは全国の和紙職人の中でも、技術の高さから唯一無二の存在。京都迎賓館の障子や照明の紙も全て手がけており、88歳になった今も現役です。

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右上:小さな橋をわたってすぐの平屋が澤村正さんの工房。
右下:ザルの中で水に浸かっているのが原料の楮の樹皮。左はトロロアオイの根から抽出中の「ねべし」と呼ばれる粘液。これが楮の繊維を絡ませる糊の役割を果たす。
左上:きれいな水に2〜3日晒した楮の樹皮を炭酸ソーダ入りの大釜で煮熟。その後、流水の中で丹念に塵を取り除き、石板に載せて木槌で叩いて細かくほぐしていく。この「塵取り」を徹底して行うのも本美濃紙の特徴の一つ。結果、紙の表面がより滑らかで綺麗に。
左下:水を張ったすき舟の中にほぐした楮を入れ、ねべしとよく混ぜ合わせて紙料を作り、簀桁(すけた)ですく。写真は紙床板(しといた)の上に重ねられた、すいたばかりの本美濃紙。時間が経つとねべしが効力を失い、1枚ずつはがれるように。それを干し板に張り、天日で乾燥後、選別・裁断を行ってようやく完成。紙料作りまでの作業が、紙すきよりもはるかに面倒なため、和紙の切れ端なども捨てずにすき返して再利用する。

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紙料を目線で追って、1枚を均一な厚さに仕上げる。それを何枚も同じ厚さに揃えることは至難の技。

綺麗な水と空気、そして明るい気持ちですいた紙こそ美しい

 「誰に縛られるわけでもなく、自由な心持ちで毎日工房に立ちます。一旦、工房に入れば、どんな時も“陽の呼吸”に切り替えなくてはいけません。困難の多い日々であっても、生きている喜びと自分の気を乗せ、心で紙をすくのです」という澤村さん。さらに「自然と共に生き、よそ見をしないことが大切」とも。淡々と語る澤村さんですが、面倒な本美濃紙づくりの工程を、全て1人で、休むことなく70年以上にわたり続けてきた精神力は、大変なものです。
 澤村さんの下で5年間修業をしてきた寺田さんも、そろそろ独立の時だそう。澤村さんの教えを守り、“心ですいた”真の本美濃紙が、次世代に受け継がれることは本当に嬉しいですね。

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半世紀ほど歳の開きがある師弟。「知識を得たら腕にして、体で覚えたら心ですきなさい」という師匠の教えを受け継ぐ寺田幸代さん(右)。

美濃和紙のさまざまな魅力に触れられる博物館

 澤村さんの工房で伝統の技を目の当たりにして、これからの美濃和紙についても知りたくなりました。すると「おすすめの場所がある」ということで向かったのが、和紙のテーマパーク『美濃和紙の里会館』。美濃和紙に関する情報収集・発信だけでなく、紙すき職人のコミュニティ拡充や「美濃手すき和紙基礎スクール」(1カ月)を設けて後継者育成を援助するなど、美濃和紙の活性化を目的に複合的な役割を果たしている施設です。
 そこで清山健館長に、美濃和紙の最近の動向を尋ねてみると、こんな明るい話題が。「昨年、原料となる貴重な楮の産地・茨城県大子町だいごまちに、本美濃紙保存会の働きかけで大子那須楮保存会を設立、供給者の育成に乗り出したところです。また海外での評価も高まっています。不純物が混じらず安心・丈夫な文化財修復材として、欧米の美術館からの需要が徐々に増えているんです」。そして、そんな美濃和紙の復興の機運をもたらした見逃せない要因の一つが「紙すきの道具を作る職人もまた美濃にいること」とも。おかげで和紙職人と道具職人との間で緊密に意見交換を行い、互いのクオリティ向上と道具の安定供給につながっているそう。厳しい時期もあった美濃和紙ですが、新たなネットワークを生かして、再び大いに発展する可能性が広がっているようです。

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右上:2階の第2展示室では、美濃の手すき和紙の多彩な種類を比較展示。そのほか傘、団扇、器など、和紙の幅広い使い方を具体的に紹介している。
右下:エントランスロビーから見下ろしたB1の売店スペース。大きなガラス壁面を用いた吹き抜けのモダンな建物は明るく、広さも十分。
左上:美濃和紙について、歴史や製造工程、紙すきの道具など総合的に学べる2階の第1展示室。
左下:B1のワークショップコーナーでは、いろいろなコースから気軽に紙すきが体験できる。コース別に料金が¥500か¥700、所要時間は約20〜40分。

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売店に置かれた、澤村さんがすいた本美濃紙の巻紙(箱入り)¥51,000。本美濃紙は、植物繊維のみでできて環境に優しく、100%再生可能である点も大きな特性の一つ。

SHOP DATA

店名 美濃和紙の里会館
住所 岐阜県美濃市蕨生1851-3
電話番号 0575-34-8111
営業時間 9:00~17:00(入館は16:30まで)
定休日 火曜日(祝日の場合は翌日)、祝日の翌日(翌日が土・日曜の場合は開館)
入館料 大人¥500(『美濃和紙あかりアート館』『旧今井家住宅・美濃史料館』との3館共通券は¥800)
Webサイト http://www.city.mino.gifu.jp/minogami/

江戸時代の商人町で見かける「うだつ」とは?

 さて次は、いよいよ美濃の中心地「うだつの上がる町並み」へ。この美濃町(上有知こうずち)は、関ヶ原の戦い(1600年)後、飛騨高山の町を造った大名・金森長近がここを治めるにあたり、川に近く水害に悩まされていた旧い町を、丘の上の現在の場所に移したのが始まり。その後、物資集散地として栄えたものの、高台で水利が悪いため、火事に備え道幅を広くし、隣家との境に防火壁「うだつ」を設けたのです。このうだつ、実は基礎から設える必要があって相当の資金を要することから、いつしか富の象徴に。そこから「うだつが上がらない」(冴えない)という言葉が生まれたと言われます。

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上:こちらが「うだつ」。表に見えるのは一部だが、実は土台から立ち上がっている。江戸時代中期以降、うだつにさまざまな意匠を施し、その豪華さを競い合った。
下:うだつの上がる町並みの江戸風情が残る通りに、500Xのシックなカラーがマッチする。

 うだつの上がる町並みで、ひときわ目を引く建物がこちら。紙問屋の豪商として13代続いた旧今井家の築300年近い建物が、博物館として公開されています。建物の至る所に、かつての繁栄を物語るディテールが。室内の障子に貼られているのは、もちろん本美濃紙で、澤村さんがすいたものです。和紙を重ねる部分をあえて格子中央に持ってくる独特の千鳥張りには職人技が見て取れ、繊細な意匠にもなっています。そして紙を積んだ荷車が建物奥まで入れるようにしたバリアフリーの造りも特徴的。床には木の車輪に合わせて板が張られ、段差がないよう全ての敷居が外せるようになっているのです。

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荷車が通る際は、入り口から奥まで敷居を取り外せば全てフラットに。

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右上:市内随一の広さを誇る旧今井家。最も古く、シンプルなうだつ軒飾りを残している。表には太めの鬼目格子。
右下:格子中央にわざと紙を3㎜ほど重ねて繋ぐ千鳥張り。職人の腕の見せ所でも。本美濃紙を透ける光が柔らかく美しい。
左上:奥座敷の床の間の天井は屋久杉の一枚板。また袋棚の戸は、金箔の上に、森村宣稲(もりむらよしね)の大和絵が描かれ、裏面にも中国の名書家・曲園兪樾(きょくえんゆえつ)の書が記された扇面が表装されている。この部屋だけでかかった費用は億単位とか。
左下:帳場の裏にある6室が、ほかより1段高くなった上段造りに。高位の身分の者しか上がることを許されなかったそう。

清涼な水音も、思い出の風景に

 そしてこの家にはもう一つ、見所があります。それが中庭にある「水琴窟すいきんくつ」。これは手洗い場などの水が地下に埋められた甕の中に落ちて反響し、涼やかな音を奏でるという風流な仕掛けです。1996年に環境庁の選んだ「日本の音風景100選」の一つにも選出。障子を通した光だけでなく、音もまた、美濃の忘れられない風景の一つとなりました。

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「水琴窟」は日本的な風流を楽しむ庭園設備の一つ。江戸時代に考案されたといわれる。

SHOP DATA

店名 旧今井家住宅・美濃史料館
住所 岐阜県美濃市泉町1883
電話番号 0575-33-0021
営業時間 9:00~16:00(4~9月は〜16:30)
定休日 火曜日(3〜11月を除く)、祝日の翌日、年末・年始
入館料 大人¥300(『美濃和紙あかりアート館』『美濃和紙の里会館』との3館共通券は¥800)
Webサイト http://www.mino-city.jp/jp/tourist/construction01.html

グッドデザインが揃う、「和紙のある生活」がテーマの美濃手すき和紙専門店

 また和紙のお土産を購入したいときは、週末と祝日のみの営業ながら、“和紙のデザインショップ”といえる『カミノシゴト』をのぞいてみてください。元々は10年ほど前に、美濃の若手の紙すき職人たちが共同でオープン。その後2012年に、和紙の卸しや岐阜提灯の絵柄を手がける家田紙工が運営を引き継ぎ、手すき和紙を使った多彩な製品を企画・販売しています。参加作家も当初の数人から増えて現在は10名を超えるまでに。店内には、若手作家の作品を中心に、先の澤村さんほかベテラン職人の本美濃紙まで揃います。
 透明な和紙に鮮やかな意匠を施した「水うちわ」が看板商品ですが、これからクリスマスに向けては、水だけで窓に貼って楽しめるオーナメントなどが人気だとか。ほかにも照明器具やコーヒーのペーパーフィルター、アクセサリー類など和紙の新たな魅力を引き出した新鮮な品々が目を引きます。取材中にも女性作家の方が大きめの作品を持ち込んで、真剣に打ち合わせ。次世代の美濃和紙の可能性に触れられる、絶好の場所です。

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「WASHI dECO」シリーズは、ガラスに当て上から霧吹きで水をかけるだけ。乾いてもはがれず、何度でも再利用可能。これからの季節に人気の柄「SNOWFLAKE」¥800〜。

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右上:手すき和紙を一つずつ丁寧に折って作ったアクセサリー。文様はシルクスクリーンによる手捺染で、仕上げにUVレジンでコート。ピアス・イアリング「Crane」「Star anise」¥3,200〜¥10,000。
右下:奥に細長い店内には、現代の暮らしに合ったセンスのいいアイテムが並ぶ。
左上:一升瓶をモチーフにした、提灯のように畳める照明「BNスタンド」(ふた付き)右:¥12,000、左:¥8,500。
左下:「WASHI dECO」のオーナメント付きのメッセージカード¥480、¥600。

SHOP DATA

店名 カミノシゴト
住所 岐阜県美濃市相生町2249
電話番号 0575-33-0621
営業時間 10:00〜17:00(金・土・日曜・祝日のみ営業)
定休日 月〜木曜
Webサイト http://www.kaminoshigoto.com/

岐阜の人気イタリア料理店が、日々の食堂として移転オープン!

 そして、うだつの上がる町並みの散策途中、おなかがすいたら休憩にうってつけなのがイタリア食堂『DONI DONI』(イタリア語で「贈り物」)。オーナーシェフの園田美佐子さんは、岐阜市で15年間、人気のイタリア料理店を続けた後、今年3月、名前も新たにこの町へ移転してきました。築85年の古民家を改装した店舗は趣があって、居心地も抜群です。

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右上:「マルゲリータ・コン・プロシュート」¥1,400。18カ月熟成のパルマ産生ハムを使用した自信作。
右下:築85年の古民家とは思えないスタイリッシュな空間。店内は手前のカウンター席と奥のテーブル席を合わせて全22席ほど。
左上:当初、建物のオーナーが所有する古い500を譲り受け、店頭にディスプレイする計画を進めていたが、配管の都合で断念。代わりにボローニャから取り寄せた赤いピッツァ釜が店のアイコンに。
左下:福井県産の「吟醸牛のロースト」¥2,800。

 心を込めた“イタリアの家庭の味”を地元の人に気軽に食べてもらいたいとの思いから、お店は何と朝9時から夜まで、ほぼ通し営業。それぞれの時間帯に合ったメニューが用意されます。また料理は、イタリア北部のものをベースに、スペシャリテのピッツァはもっちり食感のナポリ風にするなど、多くの人に喜ばれるようラインアップを工夫。可能な限り出自が明確で安全な地元食材を使い、地域密着の“食堂”を目指しています。おかげで界隈の方々にも大好評で、瞬く間に人気店に。園田さん曰く「『こんなレストランが今までなかったんです』と、とても重宝いただいています。地元の方に愛されるほど幸せなことはないですね」。目標は「おばあちゃんになっても、この場所で日常のイタリア料理を提供していくこと」だそうです。

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園田美佐子さんは、大学時代に訪れたイタリアで本場の料理に触れ、そのストレートな美味しさに感動。イタリア料理界に進むことを決意して卒業後にホテルに入社したものの、希望の料理部門への配属が叶わず、意を決して2年で退職。愛知県や岐阜県の有名イタリア料理店で修業したそう。イタリア料理への熱い思いは人一倍。

SHOP DATA

店名 DONI DONI(ドーニ ドーニ)
住所 岐阜県美濃市俵町2122
電話番号 0575-36-2600
営業時間 9:30〜10:30LO(朝カフェ)、11:00〜14:30LO(ランチ)、 14:30〜15:30LO(カフェ)、17:30〜21:00LO(ディナー)
定休日 火曜(月2回水曜と連休あり)
Webサイト https://doni-doni.jimdo.com/

 平安時代から続く紙すきの技術と江戸の商家の町並みは、共に新しい風を取り入れながら、未来へ向け再生を果たしつつあります。和紙の里・美濃への旅に出かけて、その息吹をぜひ実際に感じてみてください。

『FIAT 岐阜』
 クルマで10分もかからないところに観光地で有名な金華山があり、その麓には鵜飼で知られる長良川が流れる。そんな岐阜の風情溢れる街で20年以上前から営んでいるフィアット岐阜。セールス統括部長の佐々木良輔さんにお話をうかがいました。
 「この地域は土地柄、クルマは一家に1台というより、ひとり1台所有される世帯が多いんです。移動はもっぱらクルマ。だからこそ単なる移動の道具ではなく、日常を楽しくしたい。そんな風にお考えのお客様にフィアットを選んでいただけているのかなと思います。また、おかげさまでお客様とは長いお付き合いをさせていただくことが多く、社内では“お客様との最初の出会い、そこを大事にしましょう”と話しています。用事がなくても寄っていただけるようなお店を目指していますので、ぜひお気軽にお立ち寄りください」。

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