伝統と技術に裏打ちされた、京都のおみやげ 2012.2.22
旅に出て、その土地の空気や景色を脳裏にやきつけ、出会った人々との思い出を胸に家路につくのはすばらしいもの。そして、その思い出を具体的なイメージとしていつまでも残してくれるのが、その土地で生まれた「もの」の存在です。「もの」というのは、いくらそれ自体がすばらしい出来だとしても、使う人が愛着を感じていなければ、魅力も価値も半減してしまいます。でも逆に、深い愛情を持って所有すれば、「もの」は単なる「もの」以上の価値を持ち、使う人に大きな喜びを与えてくれるのです。
今回はそうした愛情を注ぐにふさわしい、京都の名品をご紹介します。
まずは日本茶専門店「一保堂茶舗」のお茶。1717年、近江出身の創業者が京都の中心地・寺町二条に、茶、茶器、陶器を扱う「近江屋」を出したのが始まりでした。近江屋の高品質なお茶は評判を集め、1846年に山階宮(やましなのみや)より「茶、一つを保つようにと「一保堂」の屋号を賜り、今に至ります。
創業295年。歴史の長さだけでも驚嘆してしまいますが、一保堂の扱う「京銘茶」を実際に口にすれば、この味わいが長年多くの人に愛されてきた理由が納得できます。一口に日本茶といっても産地や製法によって味にも香りにも違いがありますが、一保堂のお茶はどれを飲んでも穏やかな香りと上品な甘さ、まろやかな旨みが堪能できます。丁寧にお茶を淹れる時間も含めて、「日本茶っていいな」と心から思えるのです。
一保堂で扱うお茶は、抹茶をはじめ、玉露・煎茶・番茶類などの緑茶です。中でもおすすめしたいのが、茶葉の持つふくよかな香りとまろやかな旨みをまるごと味わえる「抹茶
です。抹茶というと茶道のイメージが強く、敷居が高いように思えるかもしれませんが、「おいしい抹茶を自宅で飲みたい!」という思いで気軽に始めてみましょう。
抹茶は茶殻も出ないし、茶せんと茶碗さえあれば簡単に点てられます。茶碗は大きめの片口やカフェオレボウルで代用することもできますが、写真のような黒楽を使うと抹茶の美しい色が際立ちます。抹茶のおいしさに目覚めたら、好みの器をじっくり探してみるのも素敵ですね。抹茶を初めて淹れる方は、一保堂のHPで抹茶の点て方を見てみるとよいでしょう。
抹茶は一般的に高価なものほど甘みが強く、渋味・苦味が少なくなります。写真の「雲門の昔」は一保堂が扱う最上級の抹茶。上品な香りと甘み、芯の強いコクが鮮やかに感じられ、和菓子にも洋菓子にも合う銘茶です。とはいえ、一保堂の抹茶は価格の安いものでもおいしくいただけるので、好みや状況に応じて選んでみてください。
朝の目覚めや食後、お茶の時間など、飲む時間や場面を選ばない煎茶もおすすめ。ほどよい渋みと甘み、後味のさわやかさが何とも言えません。HPの「煎茶の淹れ方」にあるように、ちょっと多いかなと思うくらいたっぷりの茶葉を使って、約80度のお湯を注いで急須を揺らすことなく約1分。こうした淹れ方を守るか守らないかでお茶の味わいはびっくりするほど変わります。
たった一杯のお茶ですが、茶葉を吟味し、道具をととのえ、今までよりほんの少しだけ丁寧に心を込めて淹れてみると、ただ「お茶を淹れて飲む」というだけの行為が、とても贅沢で幸福に満ちたものに思えてきます。

続いて、明治8年創業、日本で最も古い歴史を持つ手作り茶筒の名店「開化堂」です。たかが「茶筒」と思われるかも知れませんが、開化堂の茶筒を実際に目にし、手に取ってみると、その精密で美しい作りに見惚れずにはいられません。
130以上もの細かい工程を経る一貫した手仕事で、見た目の美しさだけでなく、二重構造による高い気密性を誇ります。おかげで、茶葉やコーヒー豆、食品などを湿気から守り、おいしさを長く保持できるのです。
茶筒の材質は、銅、ブリキ、真鍮があり、写真はブリキの茶筒(40g)。先ほどご紹介した一保堂の抹茶を保管しておくのにもぴったりです。開化堂の茶筒は、どの素材も朝夕のお茶時に手の平で撫でるようにして使い込むと、「手擦れ」によって少しずつ風合いが変わってきます。素材特有のツヤと色の変化が現れ、味わい深く育っていくのです。こうした変化を楽しむのも、優れた道具を長く使い続ける醍醐味のひとつといえるでしょう。
開化堂の茶筒はデパートやインテリアショップ、インターネットなどでも買えますが、京都の店頭で購入すると、茶匙をおまけに付けてくれます。希望者にはさらにその場で名入れサービスも。写真は、五代目・八木聖二さん。短時間で仕上げられる名入れの技に驚嘆!
最後にもう1店。江戸後期(天保9年)に錫師として現在地に創業したという錫・銀の老舗「清課堂」。日本に現存する最古の錫工房です。神社仏閣の荘厳品、宮中御用品を製作してきた名店ですが、先代から店舗も設け、多様な金属工芸品を展示・販売しています。

金属が持つ凛とした素材感を活かしたモダンな装いをたたえつつ、同時に日本伝統の「詫び」「寂び」の美しさや、手作りならではの温かさをも表現した逸品。これは本物の職人こそが成せる技です。しかも、金属工芸品の真価は外観だけでは判断できません。使い込むうちに独特の風合いを帯び、何十年、何百年と使い続けることができる、それが清課堂の錫製品なのです。
茶の器、香の器、食の器など、種類も豊富ですが、中でも注目したいのが錫の酒器。錫のイオン効果でお酒のまろやかさが引き立つといわれています。冷やにもお燗にもおすすめです。
普段着のお料理も、器を変えるだけでよそゆきの表情になるものです。たとえば清課堂の五角皿で京都の豆腐を。京風のだし醤油をかけ、京都の台所・錦市場の色鮮やかなぶぶあられをのせて、ささやかな京づくし。
街を散策するだけでも心地よい出会いや発見が待っている京都。旅先で、心を揺らす「もの」と巡り会えたら、おみやげとして買い求め、そのすばらしい技と伝統を日常生活の中でまた味わってみる──これもまた、旅の素敵な過ごし方ではないでしょうか。

取材・文 山根かおり
企画も手がける編集ライター。利き酒師。クッキングインストラクター。おいしいもの、こだわりの人、すてきな場所、丁寧な手仕事を目にすると、「もっと多くの人に伝えたい」と思わずにはいられない。旅と食が好き。旅先で地元の人が利用する市場やスーパーで調味料や食材を買い込み、帰国してからその味を再現するのが目下の楽しみ。Culture Magazineでは、カメラマンの夫と共にFIAT的な世界観のモノやコトを探して伝えている。
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